「基本設計」への要望

現状把握の参考として、実行委員会の事務局団体である15年戦争研究会の見解をとりあえず掲載させていただきます。

 2013年12月15日

 

ピースおおさか館長 岡田重信様

リニューアル監修委員長 橋爪紳也様

15年戦争研究会

 

 「基本設計」への要望 

 

私たちはこれまで、今年4月に公表された「展示構想」、9月に提示された「中間報告」に対し、5項目にわたる改善を求めてきました。その上で11月27日に公表されたリニューアルの「基本設計」を拝見するとき、私たちがとうてい容認できなかった中間報告の展示方針が一部改善され、前進的にとらえることが可能となりました。しかしながら、なお骨格部分において大きな問題点を引き継いでいることに変わりありません。その部分が改善されるまで私たちは要請をつづけ、貴館と協議しつづけることが必要と考えています。

 

  1. まず「前進」点を挙げるならば、私たちが第一に要請した「空襲による犠牲者に寄り添い、追悼の場を中心に展示すべき」に対し、「中間報告」は、死者の眠る焼け跡を観覧者に踏みつけさせるなど、私たちの予想だにしなかった、被害者を侮辱した展示計画を無神経に打ち出すものでした。しかし、「基本設計」ではそれを翻し、床の航空写真を撤去する案を示しました。これは「前進」というより、話し合いが成り立つかどうか前提となるものであり、その点での撤回に安堵しています。

     

  2. 私たちが要請してきた第二点は、「戦争遺物(現地・現物)に語らせる展示」でした。これも「基本設計」は、「戦争のあった時代を物語るものとして、最もパワーある」ものを、「実物」と「証言」として挙げ、「いわれのある実物」のなかからメッセージ性の高いものをピックアップする方向性を打ち出したことです。写真と機材を中心としていた「中間報告」案を大きく変更したものとして、この点も評価します。

     

  3. 私たちが関心を抱きつづけた第三目点は、戦後の展示に関し「平和構築のため、広い視野から戦争の悲惨さを捉える努力」を要請してきたことです。被害者の苦難は戦後復興にもかかわらずつづいてきたこと、平和の危機はいつでも襲ってきうることを展示するよう要請して来ました。これについて「基本設計」は「痛手を負った人々の苦しみ」の項目を新たに加え、「中間報告」にあった「日本から一歩外に出ると…平和が脅かされている」との表現も削除し、新規に「終わらない戦争」「平和を脅かすもの」の項目を加えました。

     

 これらは、館長はじめリニューアル監修委員の皆様のご尽力による成果と考えます。しかし、さらに前進をお願いするところです。といいますのは、私たちが要請してきた残る2点、「次世代をになう子どもが深く考え、理解し、自ら育つ展示に腐心する」「世界の空襲史のなかに大阪空襲を位置づけ、現代の危機へとつなぐ」点については、明瞭な改善点がいまだ示されていないからです。

 

  1. 子どもたちに防空壕の体験をさせ、「ああ怖かった!もっとしっかりした防空壕を造ろう」程度の認識しかさせない“アミューズメント施設”への志向性は、とくに「中間報告」に「恐怖」の言葉を多用したことに表れていました。「基本設計」では、この言葉を半分以下の数に削りました。しかし、そうした志向性がまだ残されていることは、情報公開された「基本計画(案)」の内容に、防空壕の展示は「調査の上、設計」すると記載されていることから判明しました。これは、多くの被害者が壕の中で蒸し焼きとなり、そこへの直撃弾によって多数亡くなった大阪空襲の事実から目をそらさせるものです。そして、この平和施設を「戦争するための施設」へと変える道を開く危険性をもつと考えます。私たちが合わせ要望してきた「子どもが深く考え、理解し、自ら育つ展示」とするため「問いかけの手法や、絵画・音楽などを、もっと活用すべき」としてきたことに「基本設計」がまったく反応していないのも、“娯楽的施設”であれば、戦争の深刻さを直視する必要性を考える必要がないからと考えます。

     

  2. そして、世界の空襲史のなかに大阪大空襲を捉える視点についても、極めて弱く、展示スペースも限られています。大阪の前段にあり、日本への空爆の原因となった南京、重慶への空襲の事実を覆い隠してはなりません。また空襲は、つづいて原爆への道を開くものであったことを模擬原爆などで示す必要があります。大阪空襲に到る道、そして空襲被害の向かう先を描かなければなりません。そして、空襲被害者の中には少なくない朝鮮人や連行された中国人がいたことも明示する姿勢が必要です。これらは、入館者を戦争の原因を取り除くことに真剣にさせ、平和への展望を抱かせるものとして不可欠です。そして、今回のリニューアルが「設置理念」にそい、加害と被害の両面を展示し、世界から祝福されたものとなるために、絶対に避けることのできない重要な点です。

 

ただし、これら二点については、ただ要請すればすむ問題ではなく、私たちとしても「ピースおおさか」に対して積極的に情報を提供し、展示構想へと練り上げていく必要があると考えています。改善の余地はある、と考えているからです。

 しかし最後に、誤解ないよう、ここで明確にしておきたいことがあります。それは、「要請した5点のうち3点が実現したなら合格点だろう」などという見方がもしあれば、払拭していただきたいことです。この5点は、すべて実現して初めて「合格点」となる性質のものです。「満点」にするためには、もっと要請したいことがたくさんあります。たとえば、大阪から出征した兵士はどこへ出かけたのか、庶民はなぜ戦争に加担したのか、などを描くことは、戦争を理解するためにやはり必要なことであり、そうした側面は、他にもたくさんあります。

 

しかし私たちは、ピースへの関心を持つ大多数の人々が、最低限のこととして要望する内容として5点をまとめたのです。それを実現しない限り運動の歩みを止めることはありません。それが実現した暁には、さらに完全で素晴らしいピースを求めて、私たちは進むつもりです。

 

その意味で、これからも、よりいっそう強力に要請と働きかけを、そして協力も、継続するつもりであることを、ここに表明しておきたいと思います。

 

以上