ピースおおさかのリニューアルに府民・市民の声を!基調提案と追加

2013年8月10日

大阪国際平和センター館長 岡田重信様

 

6月29日のシンポジウムでは、220人参加のもと、以下の5提案が基本的に了解され、さらに傾聴すべき多くの意見が寄せられました。その後も、シンポをめぐるさまざまな会議において貴重な指摘がいくつも出され、それらをここに追加部分(<>で括った部分)として加え、深化された府民・市民の意見として再整理し、提出するものです。

 

1)「空襲による犠牲者に寄り添い、追悼の場を中心に展示すべき」とする立場は、高く評価すべきです

 

ピースの展示は、イデオロギーや左右の政治主義を排し、亡くなられた犠牲者への追悼を中心にすえるべきです。この方向性は、今回の「展示構想」にかなり明瞭に打ち出されており、それは高く評価します。さらに、犠牲者の銘板に、日本人はじめ、少なくない韓国朝鮮、中国人の名前が刻まれていることも、明記すべきと思います。<ピースは戦災死亡者の名前を広く記録し追悼する施設であり、その立地が砲兵工廠の跡地という「固有性」も、もっと強くに打ち出すべきです。>

 

2)「身近な大阪から出発し、戦争遺物(現地・現物)に語らせる展示」の点は、まだ弱いと思います

 

戦争と平和を身近な問題から考え始めようとする姿勢にも賛成です。ただ、イデオロギーなどを抑える代わりに、戦争遺物それ自身が語る力強さを引き出す必要があります。現行の展示にも一部、戦争遺物は使われていますが、ごくわずかです。今回のリニューアルは、ピースに寄せられ、今も眠っている多数の遺物を遺産として活かす絶好のチャンスです。そのために時間をかけ、総力をあげて調査し、公開のためもっと努力をすべきです。<リニューアルに合わせ、新たに戦争遺物の提供を呼びかけることが考えられます。空襲体験者の生の声を反映させて展示を検証するとともに、体験証言ビデオなどの特設コーナーを作ることも必要です。また、米軍のマイクロフィルムのデジタル閲覧サービスなど、ピースの特化されたデータ力を打ち出し、それを基礎に継続的に特別展を開き、リピーターの確保と、ピース周辺および各地の戦跡とのつながりを生み出す必要があります。これら膨大な作業を支えるには、ボランティアの活用を考えることが必要と考えられます。>

 

3)「次世代をになう子どもが深く考え、理解し、自ら育つ展示に腐心する」点は、まだ弱いと思います

 

「子ども目線」を導入するとは、子どもたちの精神的成長や発達段階への配慮を基本とすべきです。相手の力を根こそぎ破壊しつくそうとする近現代戦の残酷さ、悲惨さを彼ら自らが受け止め、さらにすすんでその原因を考えるようになるためには、問いかけの手法や、絵画・音楽などを、もっと活用すべきです。また、展示全体のストーリーを検証するため、絵本作家や現場教師からの示唆や援助を求める必要もあると思います。<とくに子どもたちを引率してきた先生方の声には切実なものがあり(疎開展示の必要性、精密な焼夷弾の構造展示など)、ピースが直接呼びかけて集まっていただき、意見を聞く機会を持つ必要があると思われます。>

 

4)「世界の空襲史のなかに大阪空襲を位置づけ、現代の危機へとつなぐ」視点が、欠落しています

 

これまでのB展示室には、肯定できる面(世界へつなぐ視点)とともに否定面(羅列主義)もありました。新たな展示が大阪空襲を正面から描く場合、そこに至るまでの前史(南京*1・重慶*2への空爆など)、および現代へとつながる戦争の危機(核兵器、ミサイル等)までを見渡す広い視野が必要です*3。そのためには、ピースの「設置理念」が強調しているように、加害と被害を合わせて歴史の事実全体を取り上げる勇気と、現代戦への鋭敏な感性が必要です。しかし、「展示構想」は「大阪空襲」に閉じ、「相手のいない戦争」、単なる「過去の空襲」にしてしまっています。 <参加者の圧倒的多数が加害展示を要望しています。また、核兵器へのつながりを示す模擬爆弾の展示要請は、注目すべき指摘です>

 

5)「平和構築のため、広い視野から戦争の悲惨さを捉える努力」は、いまだ不十分と思います

 

戦争を起こすまでには、長い道のりがありました。しかし、ひとたび戦争が起これば、近現代の戦争は、市民が圧倒的な被害を受け、回復までに長く大きな苦しみが続きます。「展示構想」は、復興のみに焦点を当て、こうした膨大な戦後の影の部分を欠落させています。被害者には今も苦難が続いていること、新たな平和の危機はいつでも襲ってきうることを、明瞭に描く必要があります。<ここでも、空襲体験者による戦後の生活を語る声を聴けるコーナーを設置することが必要です>

 

<手続きについて>

 

ピースの設立と運営経過をふまえ、「設置理念」との関係を発展的に整理する要望が強く出されています。また「運営協力懇談会」をへてリニューアルを行う、などの手続きを欠いていることについて、理事会を再度開き早急な再整理と体勢の立て直しが必要と考えます。リニューアルが、ピースの継続性と内的体制を破壊するものとなっては元も子もありません。この点についても十分な考慮を要請いたします。

 

以上  

 

*1 南京戦において空襲の比重が高いことは、笠原十九司『南京事件』(岩波新書、1997年)が詳しい。

 

*2 重慶の被害については、前田哲男『戦略爆撃の思想』(朝日新聞社、1988年)が古典的な基礎文献です。

 

*3 空襲の歴史については、荒井信一『空爆の歴史』(岩波新書、1997年)が最新の優れた研究です。

 

ピースおおさかのリニューアルに府民・市民の声を!シンポジウム実行委員会